早速だが、私には母がいない。
正確には、いなかったと言った方がいいだろう。
話すと長くなるので別の機会に詳しくお話するとして、とにかく私には母がいなかった。
家族構成は小学生までは父親・弟・祖母の4人。
中学生からは父親・弟の3人暮らしになった。
つまり父子家庭で育ったのだ。
今では片親家庭はずいぶん多くなったし、父子家庭というのも時々聞く。
しかし当時はかなり稀な家庭であった。
今日はそんな幼少期のお話。
父親の紹介|見た目は怖いが優しい父
父と私は30歳離れている。
今でこそ七福神の布袋尊のような容姿をしているが、昔はなかなかのイケメンだったようだ。
だが隔世遺伝ならまだしも、どこを切っても金太郎的に、どこを取っても薄毛の家系に生まれた宿命、程なくして薄毛状態となった。
中途半端な事が嫌いな父親は、薄毛を隠すなどせず、坊主というスタイルをとった。
保育園や小学校のイベントには、ほとんどの家庭で母親が参加していた。
いや、うち以外はみんな母親が参加していた。
そんな中、ただでさえ目立つのに、坊主にサングラス、柄の悪い服装で現れる父親。
「おまえんちのお父さん、迫力あるなぁ!」男の子にはよくからかわれた。
学歴のない父親は、職業訓練学校に行き技術を身につけた。
それから自営業を始め、もうすぐ40年になろうとしている。
これは純粋に尊敬する。
ぶっきらぼうな父親に、ひねくれた娘。
難しいことがたくさんあったが、私の父親がこの人で良かったと心の底から言える今があるのが不思議である。
弟の紹介|グレた弟
弟とは年子だ。
家でも一緒、学校でも一緒のような気がしてすごく嫌だったのを覚えている。
弟はサッカーで高校に入学し寮生活を送っていたが、お盆休みに帰省した途端に気が抜け、そこで中退している。
彼がグレたのはそこからだ。
髪を少し伸ばしてブリーチし、そして少し悪い友達と付き合うようになった。
学校を中退してから働きだしたが、寝坊はするわ、仕事をさぼるわ、とにかく素行が良くなかった。
元々、弟と仲が良い方ではなかったが、ますます弟と距離を取るようになり、正直、当時の私の弟との記憶はここまでとなっている。
そんな弟も今では10歳ほど歳の離れた素敵な奥さんに出会い、娘もでき、見た目も優しい男に変身した。
あいにく遺伝というものは断ち切ることができず、彼も頭の毛を気にせざるを得ないのは、薄毛家系に生まれた宿命なのだろう。
母の日|それは大人が私に気を遣う日
保育園や小学校低学年では、母の日に絵を描いたり、感謝の気持ちを手紙を書く行事があった。
日々の生活で自分に母親がいないことを引け目に感じることは不思議となかった。
私の事情を知らない先生や友達がうっかり私に「お母さん」の話題を振ってきたとしても「家にはお母さんいないよ!」と明るく言えるくらい素直に育っていた私。
でもこの日ばかりは特別。
先生からよそよそしさを感じ、私の心も敏感になっているのを感じていた。
「じゃあみなさん、もうすぐ母の日なのでお母さんの絵を描きましょう!」
「日頃の感謝の気持ちを込めて、お母さんに手紙を書きましょう!」
「お母さん」というフレーズにいちいちグサグサくる私。
みんなの頭の中は、お母さんの顔を想像して絵を描いているだろうに、私の頭の中はお父さん。
教室の後ろに貼られた絵も、私だけお父さん。
みんなの頭の中は、お母さんの姿を想像して手紙を書いているだろうに、私の頭の中はお父さん。
いつもお仕事してくれてありがとう的な、まるで父の日のお手紙。
今思うと、大人が私に気を遣っていたのではない。
さっきは「母親がいないことを引け目に感じることはなかった」と言ったが、実は何かしら思うことがあったのではないか。
うちにはお母さんがいない。
それは仕方のないことだからと、幼いながらも自分の心を整理しようとしていたのではないか。
当時の自分の奥底にある気持ちはもう思い出せないけれど、傷付いていたことは確かな事だと思う。
大人は母子家庭なら母親や祖父に父親役をやらせ、父子家庭なら父親や祖母に母親役をやらせる。
しかしそれは代役の域を超えることは決してない。
もし身近にそのような環境にいる子供がいるのであれば、その日ばかりは特にそっとしておいてほしいものである。
母になる|母の日は幸せな一日
私も二児の母となり、子供たちは高校生と中学生にまで成長した。
今年の母の日には、マグカップと入浴剤をプレゼントしてくれた。
娘からは手紙が添えられており、これは宝物入り決定。
至らぬ母親でも無条件に愛してくれる子供たち。
あんなに気が重たかった母の日が、こんなに嬉しい日になるなんて想像もしていなかった。
あぁ、私、今幸せだ。
ふと思う。私の母親は私からのプレゼントを待っているのだろうか。
連絡を待っているのだろうか。
ありがとうと言えるような記憶はないけれど、一つだけ言えるのは、「生んでくれてありがとう」だろうか。
さぁ、母の日と言うイベントを利用して、お母さんに連絡してみよう!